コガレル(番外編)~弥生ホリック~

 リビングの明かりもつけて、荷物をソファの脇に置いた。
 お正月にはあの暖炉で薪が燃えてたっけ。
 そのままキッチンを覗いた。
 私の残したノートは今もまだカウンターに立てかけてあった。

 キッチンを出ると二階に上がる。
 廊下の電気をつけると正面のバスルーム。
 『入浴中』のプレートが下がってる。
「風呂に入る時は、必ず忘れずドアの外に吊るせ」って、しつこいほど言われた。

 可笑しな心配をする圭さんを思い出しながら、手前のゲストルームのドアを開けた。
 電気をつけて眺めたら、私が出て行った時のまま変わってなかった。
 今日は見るだけ。
 勝手に押し掛けてきて客間を使うのは申し訳ない、電気を消すと静かにドアを閉じた。

 下に降りるとリビングのソファに腰掛けた。
 スマホをバッグから取り出す。
 ここを訪ねる前、専務に連絡するのに電源を入れた時、何件ものラインと通話の不在着信には気づいた。
 冬馬君が隣にいたから、中身は確認しないで用件だけを済ませて電源を落とした。

 今ここでまた電源を入れて、改めてラインを開いた。
 未読部分の始まりは “今から帰る” 。
 その後は “どこにいる、返信しろ!” ってずっと怒ってて…

 最後は “ごめん” って謝ってた。


 何に対する『ごめん』?

 画面は滲んで、涙が溢れた。

「会いたいです、圭さん…」

 胸にスマホを抱きしめた。


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