私に光を〜あなたを信じるために〜
「神宮寺、それに珍しい星野。お前ら遅刻だぞ」
そういえば、遅刻してんだった。界君に会ったから遅刻だとは思わなかったな。
「すみません」
「星野は…まあいい。それにしても神宮寺。お前、遅刻なのに何堂々としてんだ。もう少し申し訳なさそうに入ってこい」
「さーせん」
「もういい!」
準備をしていると華奈が視界の隅に映る。昨日と同じような黒いオーラ。
私は怖くて俯く。
『堂々としてればいいだけだろ?』
でも、界君の言葉を思い出す。何俯いてんだし私。パッと顔を上げると色んな人の顔が見える。嫌そうな顔、笑ってる顔…簡単に言うとその2つの表情に分かれてる。みんなが笑えていないのは、私の存在のせいなのかな…あぁ、だめだめ。またネガティブ…もっと堂々として!

真剣に数学の授業を受ける。もう3時間目。ここ、やっぱり居心地悪いな。いや、悪くしたのは私かもだけどね。

キーンコーンカーンコーン…

私が来てからほんの数分後にチャイムがなる。すぐに私の隣に湊が来た。
「おい、夏織。お前、1度も遅刻とかしたことないのに、最近どうしたんだよ」
湊はちょっと怒り気味だ。そりゃあ怒るよね。唯一の幼馴染にどういうことがあったか何も教えてないのは…ね…でも、一番湊には言いたくなかった。というか言えなかった。本当に私はどれほど湊に迷惑をかければいいんだか。
「どうもしてないよ。目覚まし時計かけるの、忘れただけだから。大丈夫だから」
「そんな嘘で俺を騙せると思ってんの?ずっと夏織と育ってきたんだよ。幼馴染なんだよ。幼馴染の俺がわかんない訳ないだろ」
湊にはわかっちゃうのか。もう湊の優しさすら受け止めれない気がしてきちゃったよ。
「…」
今、なにか言えばきっと湊を傷つけることばかり言うと思う。だから、そんなことなら黙っていた方がいいや。
「なんか言えよ…なんか言えよ!」
あの優しい声はどこへ行ったのかと思うくらい湊の声は荒れていた。そして、周りの人たちの視線がこちらへ向いた。
「…ごめんなさい…」
私は何が言いたいの?湊に何を伝えたいの?
「でも、私、話したくない。何も言いたくない。湊には何も知らせたくない」
その言葉は…私の発したその言葉は湊にも私にも深い傷をつくらせた。
「なんだよそれ。俺、何のための幼馴染だよ。意味ねえじゃん」
大きくなった背中。でも悲しそうな背中を私に見せつけて行ってしまった。
違う…違うんだよ、湊…ごめん…ごめんなさい…私の伝えたいことはこうじゃないのに…



「湊くーん♡」
「なんだよ」
「心たち、夏織ちゃんのことで困ってるんだけど…協力してくれない?」
「俺もちょっと夏織にイラついた。でも、俺にはあんなことするほどの価値ねえから」
「えー。まあ、結局いつかは心たちに協力することになるんだけどね。それまで頑張ることね」
「お前らなんかの協力とかするわけねえじゃん。俺は違うんだよ、お前らとは。もうこれを機に話しかけんな」



「もっと素直になれよ」
隣には湊と交換して界君がいる。
「だって、もう心配かけたくないから」
「は?お前バカかよ。心配とかかけられるよりずっと一緒に育ってきたやつが困ってたりして打ち明けてくれない方がよっぽど嫌だよ」
界君のその一言で私の考え方が変わった。
「界君、ありがとう。行ってくる!」
私は教室を飛び出し、駆け足で湊を探す。
湊…湊…どこにいるの?
なんとなく湊の行きそうな場所に行ってみる。
やっぱりここにいた。湊以外誰もいない図書室。
「湊」
「夏織?」
「さっきはごめん。湊には心配かけたくない。湊には私の悲しみを…こんな重い気持ちを一緒に持ってほしくない。湊には…湊には…って思ってばっかで…でも結局、私は湊の気持ちを考えてなかった。私ね、なんかいじめられてるっぽいんだ…それで…」
私は今までのこと全部を湊に話した。
「うん、全部話してくれてありがとう。実は知ってた。でも、俺は夏織が話してくれるまで動かないようにしようって思っちゃってたからずっと知らんぷりしちゃってた。それだけど、ちょっと待ってても夏織は言い出そうとしないから…どうした?って聞いても言い出してはくれないから…そんな夏織に少しだけイラついた。それだけじゃない。俺、多分嫉妬したんだ、神宮寺に」
何も知らなかった。湊の気持ち。
でも嫉妬とかよくわかんないよ?界君に嫉妬って一番わかんないよ。
「え?嫉妬ってなんなの…?」
「俺だってよくわかんねえけどさ。俺…無神経か。ごめん、なんでもないや」
「またそれー?前もそうやってなんでもないって!」
なんだか今は心が楽。仲直りしたから。これ、仲直りっていうのかな?とりあえず、なんかいい!
「なんでもないはなんでもねえんだよ!」
照れっとした表情のまま湊が言うからこっちまで照れちゃうじゃん!
そういえば、なんか学校来てよかったな。

キーンコーンカーンコーン…

「嘘だろ!?もうチャイムなっちゃってるじゃん!急ぐぞ、夏織」
「うん!あ、次、高橋先生の授業だよ」
「まじかよ、こんな時に限ってそれはやばいな」
「とりあえずダッシュー」
湊に手を引っ張られながら教室へ向かって走る。
< 9 / 18 >

この作品をシェア

pagetop