別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー

秋のマンションから会社までは車で20分で着く。

私のアパートからだと電車で乗り換えを挟んで３0分かかるから、秋のマンションに泊まった日はいつもよりも朝のんびりしていられるのだ。

車に乗り込むと、秋の好きなロックミュージックが会話を邪魔しない程度の音量で流れる。

秋にとっては朝のテンションを上げるために必要なものらしいけど、私には全くその良さがわからない。

「明日祝日だし、今日は俺も早く上がれそうだから、どこか行く？」

「うん、じゃあロッカールームで時間潰してるね」

会社の少し手前のスーパーの駐車場で車を下ろしてもらい、「じゃあね」と別れて別々に出社する。

そして社内で会えば「おはようございます」と白々しく挨拶をかわすのだ。


私と秋の勤務先は、全国に400店舗展開するSPAアパレルメーカー『株式会社 Ra-Ra』本社。

実は秋はこの会社の御曹司で、平社員として修業中の身だ。

秋に確かめたことはないけど、私がこの会社に採用されたのは十中八九秋のコネだろう。

私たちは同じ部署――通信販売事業部に所属している。

10階建ての社屋には500人以上の社員が働いているのに、こうして部署が同じなのも偶然ではなく秋の働きかけによるものなののだと思う。

通信販売事業部では自社ECサイトの運営に携わる社員が20人ほどいて、私は主にコンテンツの作成やカスタマーフォローなどのデスクワークが主だ。

秋はECサイトのデータ統計やセール品の価格設定などを主にしており、詳しい内容はわからないけど、会計部門とのミーテイングで席をはずしていることも多い。

フリーアドレスデスクではあるものの、普段話をする機会は滅多になく、月曜に行われる部内全体の定例ミーティングの時に少し関わるくらいだ。

当然ながら、私と秋が付き合っていることは誰も知らない。