別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
秋とデートできることになったのは数日後のことだ。

先に仕事を終えた私は、秋が終わるのが何時になるかわからないため、駅ビルに行って時間を潰すことにした。

なにかほしいものがあるわけでもなく、ブラブラして100円ショップの前を通ったとき、あるものに目が留まった。

これだ。ピンときた私はそれを手に取ってすぐに会計へと向かった。

『終わったよ』

会計を終えたあとタイミングよく秋からの連絡が来て、駅のそばの通りまで車で迎えに来てもらうことにした。

車のドアを開けて「お疲れ様」と微笑み、同じように秋は微笑み返してくれる。

「どうする?どっかでご飯食べようか」

「うん。それからウチのアパートに行こ」

「了解」

幅の狭い道路を抜け、遠回りをして大きな道路にUターンする。

大通りを抜けて着いたのはこれまた『いつもの』定番の店だ。

眩しいくらいに光る緑の看板が迎えてくれるファミレスの窓越しには客の姿がたくさん見えるけど、混んでいて座れないということはないだろう。

お洒落なお店なんて探せばたくさんあるけど、秋は堅苦しい店は苦手なのだ。

こんなことで専務になった時にちゃんと接待が務まるんだろうか、なんて余計な心配をしてしまう。

秋はハンバーグセット、私はパンケーキをオーダーすると、店員がいなくなったあとに秋が顔をしかめた。

「パンケーキはデザートの部類だぞ。
最近ちゃんと食べてるのか?」

「食べてるよ。
朝ご飯にパンケーキを食べる人だっているでしょ?」

「まあそうだけど」

納得の行かない表情の秋に平然を装ってにこりと微笑み、窓の外に目を遣った。

暗いけど、天気が崩れそうな様子はないし風も吹いていない。

これは絶好のチャンスだ。

さっき買ったものはカバンに忍ばせてある。

こんなものが突然出てきたら秋はびっくりするだろう。

パンケーキは全部食べることはできなかったけど、さっき駅ビルの試食コーナーで色々つまんだのだと嘘をついた。


< 63 / 179 >

この作品をシェア

pagetop