彼の甘い包囲網
「何してんの、はこっちの台詞。
……彼女?」

私を遠慮がちに見ながら有澤、と呼ばれた男性は兄に話しかけた。

黒い前髪を無造作に流して耳にかけて、後髪は短めに整えてある。

きちんと整えられた眉に垂れ目がちの二重瞼。

高い鼻に小さな顔。

整った容姿の男性だった。


「そんなわけないだろ、妹だよ」

呆れたように兄が言った。

「え、妹?!
ヘエ、そっか……そういや妹がいるって昔聞いたような……」

マジマジと見つめられて私は居心地が悪くなって俯いた。

「可愛い。
初めまして、柊の高校時代からの友人の有澤涼です」

「は、初めまして。
安堂楓、です。
兄がいつもお世話になっています」

ペコリ、と頭を下げると。

「お世話になってねえよ。
どちらかというとお前を俺が世話してた」

兄の不機嫌そうな声が降ってきた。

「もう、お兄ちゃん!」

柊兄の態度に恥ずかしくなる私に、クスクス、と有澤さんは笑っている。

「それにしてもすごい偶然だな。
お前には先月も会ったけど……出張か?」

「ああ、札幌支社にね。
今から家に帰るところ」

「そっか。
俺も今からコイツと帰るから、乗っていくか?」

「いや、有り難いけど……折角の兄妹水いらずの邪魔をするのも……」

「何言ってんだよ。
家に帰れば嫌でも水いらずになるから、気にすんなよ。
楓、ちょっと遠回りになっても構わないだろ?」

兄の言葉に頷く私。

「……じゃあ、申し訳ないけど……」

恐縮したような微笑みを有澤さんが浮かべる。

兄は人付き合いがいい人間だけど、むやみやたらと誰にでも親切な人間ではない。

そんな兄が親切にするということは、兄にとって有澤さんはいい友人なのだろう。

私の前方をキャリーケースを押しながら歩く二人の姿を眺めながらそんなことを思った。
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