秘書室長と鉄壁女子の攻防戦


眼鏡をかけた長身の男の人が私たちを見下ろしている。

その人の後ろには、ウチの会社の警備員がふたり立っている。

年配の警備員だけど、元警察官だって聞いたことがあった。

「あんたには関係ないだろ」

この状況でもナンパ男は引き下がらない。

しつこ過ぎる。

「後ろのふたりは元SPで、あんたなんか、一捻りだと思うけど」

私は何気なくボソッと呟いた。

「す、すみませんでした!」

ナンパ男は踵を返して足早に去って行った。

最初っから、こんなところでナンパなんかするなって言ってやりたい。

「大丈夫だった?」

隣にいる女の子は泣きそうな表情で私を見た。

「すみません!ありがとうございました!誰も助けてくれなくて、困ってたんです」

「無事でなにより。気をつけて帰ってね」

女の子は何度もお辞儀して、その場から去って行った。

さて、私も帰ろう。

駅に向かおうと、足を踏み出したところで、クククッと、どこからか笑い声が聞こえてくる。

「勇ましいな」

頭上から言葉が降ってくる。

「私のことですか?」

「あなた以外誰もいないけど」

なんだか嫌な感じ。

私は長身の人を無視して、ふたりの警備員に頭を下げた。



< 6 / 25 >

この作品をシェア

pagetop