放課後○○倶楽部
第一八話:カレーパンよ、華麗に舞え
 カレーパン――。

 絶妙な具とパンのハーモニーがお口の中で広がり、カレーのスパイシーな香りとジャガイモやお肉のジューシーな味わいが味覚のオーケストラを奏でる。

 俺もカレーパンは好きだが辛過ぎるのは勘弁して欲しいが、この人は何を食べても大丈夫なんだろうな。

「カレーパンが盗まれたんだよ! 一大事でしょっ」

 目の前で唾を飛ばして俺の頭をシェイクする和音さんの胸も一緒にぷるんっと揺れていた。


 ……は、吐きそうだ。


 昼飯を食べて一時間ほどの胃袋にはきつい仕打ちで、リバースしないように口を閉ざしていないと危なかった。

「……で、一体何の話ですか?」
「だから私のカレーパンが誰にか盗まれたんだよっ」

 言っている意味が分からないが、俺にはどうでもいい事だというのは十分に理解出来た。

 現在、部室の中で和音さんと二人っきりなのだが、決して色恋沙汰には発展しないのは色気より食い気が勝っている和音さんが目の前にいるからだろうな。でも、この部室内に充満する油の匂いが更に吐き気を増長させてくるのでトイレに行って来てもいいでしょうか?

「それが授業中に俺を拉致った人の台詞ですか?」
「授業よりカレーパンだっ」

 いや、授業でしょ? 普通。

「ほら、ここに入っていた『激辛ハバネルネルカレーパン』が三個もなくなっているんだぞ! これが緊急事態以外の何ものでもないだろっ」

 テーブルの上には竹で編まれたザルの上にキッチンペーパーを敷き、その上に色とりどりのパンが山のように積み重なっているのだが、和音さんの話では全てカレーパンらしい。

 呆れるとか感心するとか関係なく面倒な事になりそうなので関わりたくないと思っていたところで、タイミングよく授業終了のチャイムが鳴っていた。
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