放課後○○倶楽部
「……野生が目覚めた」
「ふがっ、ふははへほはっ」
「まずは飲み込んで喋ってくださいよ。律子ちゃん、早めに珈琲お願いね」

 口いっぱいにケーキを詰め込んで何を喋っているのか分からないが言いたい事は大体見当がつくので宥めていると、そこへ律子ちゃんが珈琲を淹れてやってきた。

「はい、どうぞ。少し温(ぬる)めにしてますのですぐに飲め――あっ」
「んぐ、んぐっ……はあーっ」

 律子ちゃんの説明を聞かずに一気に珈琲を飲み干した和音さんは口を拭って――
「誰が野生児だって、こら」
 俺を睨みつけてきた。

 想像通りの言葉を投げかけられて思わず吹き出しそうになってしまったが、すでに五つ目を手にしている和音さんには脱帽してしまう。


 ……見ているだけで胸焼けしそうだ。


 女の人は「甘いものは別腹」と言うが、そもそも『別腹』とはどこにあるのだろうか? 人間の身体は不思議なものだな。うん……不思議なものだ。

「おーいっ、ともちゃん」
「もう、翔様。今は夫婦水入らずの時間ですよ」
「いやーっ、いつから僕達夫婦になったのっ」
「たった今です。桜井、お茶をもってたもれ。伏峰、足が疲れたから揉んでおくれ」

 嬉々とした女子の声に重なる絶望的な男の悲鳴が部室の中に木霊しているが聞かなかった事にしよう。

 そして、余計な言葉まで聞こえるのでそれもシャットダウンする。

 いや、全て聞こえなかった事にして忘れ去るのが一番だろうな……うん、そうしよう。
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