たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。

ーー進藤 亮(しんどう りょう)部長。三十一歳という若さで当社の本店営業部長を務めるエリート上司。

その経歴だけでも凄いのに、クールで落ち着いた雰囲気と、女性なら誰もが一度は振り返ると言っても過言ではないくらいのルックスの持ち主だ。


彼のグラスにビールを注ぐと、部長もまた、私のグラスにビールを注いでくれた。


「仕事は慣れたか」

笑顔もなく、短い言葉。だけど異動してきたばかりの私を気遣ってくれているんだろうなとはっきり分かる。


「本店は仕事量が多くてなかなか……でも頑張ります」

「桃城の異動は栄転だと聞いてるから期待している」

「え……」

栄転。確かに、入社三年目で本社に異動となったのは、これまでの業績が認められたからだと人事部長から直接聞いている。
でも、その期待に本店で応えられるかどうか考えたら、自信を持てない……。


すると。


頭の上に心地良い重みを感じる。

いつの間にか俯かせていた視線を上げれば、部長が右手のひらを私の頭に乗せていた。


「期待されてるって言われるのが、プレッシャーなのか?」


え……どうして分かるの?

でも、部長からせっかく期待していると言っていただけたのに、それを否定していいのか分からずに口ごもっていると。


「気負わずに自分のペースでやればいい」

そう言って、彼はグラスの中のビールに口付ける。


部長って……いつもクールで無表情だから怖い人なのかなって何となく思っていたけど……


「部長」

「何だ?」


「……ありがとうございますっ」


本当は優しい人なんだろうな。
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