手をつないでも、戻れない……
~樹~

 久しぶりに会った美緒は、あの頃より、ずっと綺麗になっていた。


美緒の家の葬式の手伝いを頼まれた時、美緒に会う事は間違いないと胸の奥がざわついた。

 幼い頃から美緒の事は知っていた。

学校の帰り道が一緒になると、必ず後ろを付いてくる。

その姿が可愛くて、よく美緒を探しては近くを歩くようにしていた。


 短大を卒業してから地元に戻って来た美緒は、すごく綺麗になっていて、一目で胸が締め付けられた。

きっと、他の男達がほってはおかないと思い、かなり俺は焦っていた。


子供の頃から、仲が良かった美緒の兄に、飲み会に美緒が行った事を聞いて、俺もその居酒屋に行った。

それがきっかけで、俺と美緒は付き合う事になった。

可愛くて、大切すぎて、美緒をはじめて抱いた時の事は、今でも忘れる事ができない……


 そんな頃だっただろうか、幼なじみの美緒の兄の浩平と飲みに行ったのは……

「俺さ、結婚しようと思うんだ……」

浩平の言葉に、それほど驚く事もなかった。


「そうか…… おめでとう」

「ありがとう…… 樹はどうなんだ? 付き合ってる子とかいないのか?」

 浩平は、ちらっと俺を見た。


「まあな…… 大切な子はいる。結婚したいとも思っているけど、もう少し先かな?」


 意味ありげに言った言葉が、後で大きな間違いへと繋がってしまうなど思ってもいなかった。

  
 俺は、ただただ美緒が好きだった。
< 11 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop