手をつないでも、戻れない……
 美緒を失って死んだように生きる日々が続いていた。

 見兼ねた同僚に誘われ、乗り気のしない合コンへと行った。

 その時、彩香という、三つ年下の看護師が俺の横に座った。

 彩香も気乗りがしていなのが見え見えで、黙って目の前のアルコールを飲み続けていた。


 五敗目のグラスを開けたとき、さすがに気になり声を掛けた。

「そんなに飲んで大丈夫か?」

 俺の声に、睨むように彩香は顔を上げた。


「あなただって、黙って何杯飲んでると思っているのよ」

 彩香は、呆れたように俺の前のグラスを見た。

 さっき、空いたグラスを店員が持って行ったのに、もう、空いたグラスが三つ並んでいる。


「そうだな……」

 俺は、そう言ってまたグラスを口に運んだ。


「女の子を探しに来たなら私は無理よ。男に振られたばっかりだから、その気は無いわ」

 彩香はそう言って、グラスを持つと一気に飲み干した。


「ふふっ…… 俺と一緒だな」


「はあ? 笑いごとじゃないわよ」

 彩香は怒っているようだった。



 二次会が終わる頃には、俺も彩香も、どうしようも無いくらいに酔っていた。

 なんとなく、一緒に帰り道を歩いた…… 

 そのまま、ホテルへと流れ、お互い誰かの代わりである事を知りながら抱き合った。


 その夜一度限りで終わると思っていたのだが、淋しさを埋める為に、時々彩香と会うようになっていた。

 彩香は、普段は落ち着きのある穏やかな女性だった。

 別に一緒にいる事も嫌では無かった。


 半年ほどそんな関係が続いた時、彩香に子供が出来たと言われた。

 これも、俺の運命だと受け入れた。

 彩香との結婚生活は、穏やかな物だった。

 看護師の仕事が忙しく、すれ違う事も多かったが、それほど不満にもならなかったし、娘の由梨(ゆり)も可愛かった。

 このまま、俺の生活は何も変わらないと思っていた。


 もう一度、美緒に会うまでは……
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