手をつないでも、戻れない……
約束の時間に、駅の前に着いた。

カーキ色の落ち着いたデザインのワンピースに、薄いロングカーデガンを羽織る。

メークもしっかりして、ピアスとネックレスもシルバーの襲お揃いの物を付けた。


 辺りを見回すと、彼が、駅の階段の手すりに寄り掛かり立っている姿が目に入った。

すぐに、気付いた彼は、私に向かって手を軽く上げた。


「ごめんなさい…… 待った?」

軽く言った私を、彼はじっと見た。


「いや…… 何食いたい?」


「あっ…… なんでもいいよ……」


「そっか、じゃあ、たまには旨いもんでも食うか?」

彼は、なんだか嬉しそうに歩き出した。

私も慌てて、彼の後を追った。


彼の向かった先は、私が入った事のない、ちょっと有名なステーキの店だった。


店のドアを開けようとした彼の腕を、慌てて引っ張った。

「何?」

彼は、不思議そうに私を見た。


「こ、こんな高いお店じゃなくていいよ……」

小さな声で言った私の頭を、彼は大きな手の平で、軽く叩いた。

あの頃と変わらない、彼の手の暖かさが伝わってくる。


「せっかくだから、付き合えよ。奢ってやるからさ」

彼は、店のドアを開け、私の背中を優しく押した。


「う…ん」

私は、仕方なく店の中へと入った。


 案内されたのは、モダンな作りの落ち着いた個室だった。
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