手をつないでも、戻れない……

「ごめんな…… 美緒…… 
 俺が、あの時、男として美緒を守っていたら、苦しめなくて済んだのに…… 
 傷つけてごめん……」

 彼は、優しく手を繋いだまま言った。


 あの頃は、彼の気持が分からなかったのに、今なら、彼が私を愛していてくれた事が切ないくらいに伝わってくる。


 そして、どうする事も出来ない事が……



「謝らないでよ…… 昔の事だって言ったじゃない……」


 そう言って、手を離せばいいのは分かっているのに、私は彼の手を離す事が出来なかった……



「分かっている…… 分かっているけど……」

 彼は、そう呟いた途端、つないだ手を強くひっぱり、そのまま彼の胸の中へと包まれた。


 背中に回った彼の手が、強く、私を抱きしめた。



 彼の変わらない匂いに、胸の中に熱いものが込み上げてきた。



 ずっと、我慢していたのに……


「本当は、ずっと好きだった…… 戻りたいよ、あの時に……」


 言ってはいけないと思っていた言葉が溢れ出てしまった。




「知ってた…… 美緒が我慢している事くらい俺には分かる…… 俺だって…… 」


 彼の手が、益々強く私の体に被さってくる。


 思わず、彼のスーツの襟を強く握りしめた。

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