手をつないでも、戻れない……
 悪い人では無い事は分かっていたし、好きだと言ってくれた雅哉の目は真剣だった。

 つい、昨日までは前向きに考えようかと思っていたのだが…… 

 私は、彼と再会した事で、彼以外の人を愛せない事を思い知ってしまった。



「今日のケース、ちょっと大変そうですね」

 雅哉は、眉間に皺を寄せて言った。


「あの……、お話ししたい事が……」

 私は、この場で言うのもどうかと、遠慮がちに口にした。


「うん…… じゃあ、今夜……」

 雅哉の、表情が少し固くなったような気がした。


「はい」

 私は、肯いた。



「あ……」

 雅哉が何かいいかけたが、入り口のドアが開き、会議に参加する人達が入ってきた。

 雅哉は、私を見て、軽くほほ笑むと自分の席に着いた。


 会議もスムーズとはいかないが、問題をいくつも抱え終了となった。

 ほっとしたのと同時に、今後の方針に大きなため息がでた。


「何かいいサービスの利用に繋がるといいけど……」


 後ろからの声に振り向くと、雅哉が眉間に皺を寄せ立っていた。

 もう、誰も居ないと思ってついたため息に、慌てて笑顔をつくる。


「そうね…… 家族の意向もあるし、いい方法が見つかるといいけどね……」


「水嶋さん、どこ行っても評判いいから、協力してくれる施設ありますよ。僕も、色々探してみます」


「ありがとう……」



「あの、今夜、一緒に食事しませんか?」


 雅哉は、少し不安気に聞く。


「ええ……」

 ここで断るのも、いかがなものかと思い、返事をする。


「じゃあ、場所と時間は、後でメールします」


「お願いします」

 ペコリと頭を下げた。


「お疲れ様でした」

 雅哉は、頭を下げ部屋を出て行った。
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