手をつないでも、戻れない……
「僕、異動が決まったんだ。来月から、しばらく他の地域で研修を兼ねての配属が決まった」


「ええ! そうなの?」 


 雅哉が、福祉課に来てからは、本当に助けてもらい、相談出来る強い味方だった。

かなり厳しい事になるだろう……


「大丈夫だよ。後任の人も、仕事熱心でいい人だから……」

雅哉はそう言ったが、不安を消す事は出来なかた。


「でも…… 理解してもらうまでには時間がかかるかも……」

つい、心細い声になってしまう。


「大丈夫だよ。美緒さんなら、どんな人だって、上手く丸め込めるから」


「えっ、どういう意味よ!」

 私は、かるく雅哉を睨む。


「みんな、美緒さんの力になりたくなるって事。でも、定年が近い、じーさんだからね」

 雅哉は、少しニヤけている。


「いいわよ、そんな事は……」

 私は、少し呆れた顔を見せた。。


「そうかな? 僕には重要な事だけど」


 雅哉の窓に向けた目は、なんとなく淋しそうに見えた。



「淋しくなりますね……」


「そんな嬉しい事を言わないでよ。期待しちゃうじゃん。」

 雅哉は、珍しく弱々しい笑みを見せた。


 私は、改めて背筋を伸ばした。

「一ノ瀬さん、本当に色々ありがとう……」


「僕の方が、助けてもらったんだよ。美緒さんに出逢えて、多分僕の人生は大きく変わったと思う」


「そんな……」


「本当だよ。美緒さん元気でね」


「一ノ瀬さんも、お元気で」


 お互い、目を合わせて笑った。


 決して、恋愛感情があったわけではないが、雅哉との別れも私にとって、切ない出来事だった。

 もう、雅哉に会う事はないと、この時は思っていた。
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