僕らのチェリー

しかしそれもそろそろ限界だった。

母が独身のころから長年貯めてきた貯金が底を尽きてしまったのだ。

その上死んだ親父が残した借金を返さなければならないのだから家計は赤字の連続だった。

高校を辞めて、おれも働くべきか。

母には反対された。高校を辞めたら今までの苦労が無駄になると責められた。

でもおれはこれ以上母の弱っていく姿を見ていたくなかった。

悩んだ末出した結論は、高校は通うことにしてバイトを増やし生活費を稼ぐことだった。どうしても母に負担をかけたくなかった。

学校から帰ってから朝までの間コンビニエンストアを軸に、時給のいい短期のバイトを毎日入れてはがむしゃらに働いた。

おかげで学生生活のほうはおろそかになり遅刻や早退、さらには出席しないことも多々あったため教師が家まで押しかけてくる結果になってしまった。

彼女は宮田杏奈といい、まだ初々しさが残る新米教師でおれのクラスの副担任だった。

来る日も来る日も彼女はインターホンを鳴らして学校に来いとまるでセールスマンのようにしつこかった。


「おはよう。きょうは学校来る?」

「こんにちは。連絡事項持ってきたよ」

「あしたは校内一斉掃除があるの。面倒臭いからって学校さぼったりしたらだめだよ」

「橘くん。先生はあしたも学校で待ってるからね」


いつからだろうか。

おれはいつの間にかインターホンが鳴るのを心待ちしていた。

彼女を家に上げてたわいもない話を繰り広げるのが毎日の楽しみになっていた。
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