【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
雅さんは立ち上がって私の手を取り、私を立たせた。腰に手を添えられ、引き寄せられる。


「いけない恋をしてるみたいだ。そのほうが燃えるよね、ハニー?」


おもむろに伸びた雅さんの指は私の顎を摘まむと上を向かせた。触れては離れ、離れては触れる。向きを変えて何度も唇は重なる。

いけない恋って。
婚約者と宣言しておいて、本当は私は影の存在?

甘く、湿ったキス。
体も頭の中もぼうっとしてしまう。
ダメ。ちゃんと聞かないと。私、雅さんの婚約者なの?


「雅さ……」


しゃべろうと口を開くけれど、雅さんの柔らかい唇で塞がれてしまう。それどころか、熱のある彼の舌が割り込んできた。

もっとほしい。つい、彼のスーツの襟をつかんだ。
とたんに彼は私から唇を離した。


「じゃあ。唐沢に見つかるとうるさい」
「あのっ」


雅さんは踵を返し、オフィスを出て行く。私の声は聞こえてるはずなのに。私は雅さんのあとを追ってオフィスを出た。エレベーターに向かうと扉が閉まる直前だった。隙間から見えたのは雅さんが斜め下に視線を落として床を見つめる姿。肩が落ちたのはため息をもらしたようだ。

閉じたエレベーターは下にむかったよう。
追いかけても、何か収穫があるとは思えない。窓から下を見る。ロータリーには雅さんのセダンらしき紺色の車がハザードを点滅させていた。
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