【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
私のスーツの隣には、もうひとつのスーツ。

濃紺で光沢のあるそれは、私のジャケットと比べてひとまわりもふたまわりも大きい。三つ揃いなのかジャケットの内側にはベストも見える。そしてきれいに折り畳まれたスラックス。

彼女がパンツスーツだったとしても武田さんのものではない。どう考えても紳士もの。

顔から血の気が引く。首からも肩からも胸からも……。

恐る恐る下を見る。胸の上にもわき腹にも二の腕にも、そして布団をめくってさらに下を見ると太ももにも赤い鬱血がある。

こんなにたくさん……。泥酔していたとはいえ、転んでぶつけたには不自然な痣。

ということは……。

必死に昨夜の行動を思い出そうとするけれど、タクシーに乗せられたところまでしか記憶にない。でも半個室で飲んでいたから誰かにナンパされたという可能性は低い。

一体、誰?
橘さん、と? そんなはずはない。

私は首を横に振った。また頭痛がして頭を押さえる。

クラクラする頭の中でわずかにベッドの上での行為が蘇る。


『ここ……? それともここ?』
『もっと、って。結構素直だな』
『きれいだ』


この絡んだシーツの肌触りは覚えている。
そして堪えきれなくて声も上げてしまったことも何となく覚えている。

そのときだった。かたん、と通路の向こうでドアが開かれる音がした。柔らかい足音がだんだん寝室に近づいてくる。私はとっさに布団を上げて露わになっていた胸を隠した。心臓が壊れそうなくらいに音を立てる。

現れたのは、白いガウンを着た背の高い男性。タオルで頭を覆い、やや長めの髪をガシガシと拭いている。
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