【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
§ひとりの夜、ふたりの夜
雅さんから何の連絡もないまま、翌日火曜日。もちろん唐澤さんからも連絡はない。

雅さんの婚約者のスケジュールは秘書の唐澤さんが管理するって宣言していたのに、全く連絡がないところをみると私は婚約者でなくなった可能性もある。

ネックレスは無意味に私の鎖骨で揺れている。
私の心も揺れている。昨日、一昨日、一昨々日も雅さんと会っていない。彼に会えない日の夜は堪える。会えた日はこんなことがあった、言われた、された、と思い出して耽ることもあるけれど、なにもなかった日の夜、ひとりの夜はさみしい。

昨日作成したテナント誘致したいショップリストをもとに、いくつかの偵察にオフィスを出た。同行しているのは武田さんだ。都心部にある老舗デパートと最近若者の街にできたショッピングモールをハシゴした。

朝から歩き続けてクタクタだ。武田さんは、目移りしますね!、とはしゃいでいる。ずいぶん歩いたのに武田さんは楽しそうだ。まだ偵察したかったらしいけどもう遅いし帰ろう、と地下鉄の駅へ向かう途中だった。

信号待ちで向かいのビル群を眺める。夕暮れの混み合う歩道のなかで、頭ひとつ分、見覚えのある顔がぽこんと抜きんでていた。


「あれ……?」
「どうかしました?」
「雅さん?」


人混みのなかで長身は目立つ。ましてやあの風貌。パーカーやジーンズ姿の若者があふれる街でのスリーピースのスーツは浮いている。

誰かと歩いているのか目線を斜め下にして口を動かしていた。
向こう側に誰かいる。顔の傾け加減から背の低い人だろう。唐澤さんではないのは明らかだ。
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