レモンミルクキャンディ
プロローグ
眩しい木漏れ日が私の膝をかすめた。見上げてみると、木の葉は夏色で、鮮やかな緑が視界を駆ける。友人からもらったレモンミルクキャンディは生ぬるく本来の清々しい味でなく甘ったるく私の舌を転がった。
「仲いいなぁあの2人~……」
隣から声がして友人の林朱里の視線を辿ると、1組の男女が楽しそうに笑っていた。私はその二人共を知っている。ガリッと飴を噛み砕くと、中からミルクが出てきた。
「甘い……」
「本当だよ、青春だねぇ甘いねぇ…」
「ああ、そっちじゃないかな。」
「え?」
私たちは話がよく噛み合わない。お互いの物の感じ方がかなり違うのをよく感じる。私はもう1度その男女を横目で見た。飴が口の中で全部溶けたかと思いきや歯の隙間に鋭い欠片が残っているのに気づく。私は敢えてその欠片を取り除こうとは思えなかった。
「朱里」
「ん?何?」
「これ、レモンキャンディなのに甘すぎる…」
「キャンディだからね」
「そっかぁ……」
あぁ………甘い、レモンミルクキャンディだな。
私はもう1度朱里の目線の先の1組の男女を見た。女は私の友人、男はかつて私が好きだった人だった。
「……朱里、Kはどう感じていたんだろうね」
「K…??…ああ、夏目漱石のことね」
夏目漱石著書の「こころ」という文学を今私達は現代文の授業で学んでいる。私達の今の学習シーンは、ざっくり言ってしまえば、登場人物の「私(先生)」の友人の「K」は、「私(先生)」に好きな人を取られるという略奪劇なのである。
「Kはそうだね……。別に『お嬢さん』を取られたことにはなんとも思ってなかったでしょ」
「……知ってるよ」
私の表情を伺いながら、朱里はそう言い放った。私は朱里にバレないように笑うと、他の文学史の話に話題を変えた。

ー知ってるよ。ー
自分が言った言葉を頭の中で反芻させる。
Kの気持ちは私にはわかっても理解できないが、私自身の気持ちは理解するどころか分からないのだった。


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