昨日 見上げた空
10年前の初秋 (2008)
【海 堤防】

ブレザー姿の紅美が 防波堤で寝転がって空を見ていれる。
どこまでも青く、どこまでも静かに、どこまでも続いているような空だった。
紅美の視界には空だけ、まるで自分も天空に浮いているような錯覚になった。

「吸い込まれそうだなぁ」

心の声が漏れた。

穏やかな陽射しの中、海を渡って来た優しい風は ほんの少しだけ秋の香りがした。
防波堤沿いに並ぶテトラポットに当たる波の音が 心地よかった。
無限にひろがる真っ青な空は 高く高く見え 見飽きる事がなかった。

紅美は 昨日 担任の教師と話した事を 思い出した。


【回想 放課後 教室】

「市野は どうするつもりだ進路は、行きたい大学 みつかったのか?、、おまえくらいだぞ、どうしたいのか聞かせてもらってないのはな、、」

窓の外の 部活で汗を流す生徒を ただ ぼーと 紅美はみていた。

「聞いてるのか、市野」

教師の声が耳に入らないのか、紅美は 意味もなく 走る生徒を目で追っていた。

「市野!」

「あっ!はい、がんばります!」

「何を 頑張るんだ、、俺の話し聞いてなかっただろ」

「スミマセン」


【海 堤防】


「パンツみえてるよ」

紅美は、ハッとして目を開けると同時に 上半身を起こしながらスカートをおさえた。
小さな灯台と 水平線が見えるだけで 誰もいなかった。

「すごい速かったね(笑)」

振り返ると カメラを持った 男がたっていた。

「うそだよ、見えてないよ(笑)」

「と、盗撮!!」

「そんな訳ないだろ、、脚は海に向いてて反対だし、、ロリコンじゃないしな(笑)」

「カメラ持ってるじゃん!」

「ああ、これ?」

「そう、、高そうだし オタクの人が持ってそう」

「偏見だなぁ、、」

「じゃナニ??」

「カメラマン」

「カメラマン?怪しい、、」

「正確には、カメラアシスタントだけど」

「へぇ、、」

「サボり?」

「ち、が、い、ます」

「じゃ、やがて大学行って、、」

「んー、ねぇ 何でカメラマンになったの?」

「カメラマンかぁ、、まだアシスタントだけどね」

「アシスタントはカメラマンに、、どーしたらなれるの?」

「師匠カメラマンに認めてもらうとか、自分の撮った写真をクライアントに認めてもらうとか、、」

「へぇ~、で、盗撮さんは、何を撮ってるの?」

「だから、盗撮してないから!、名前も ちゃんとあるし。楠木です」




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