見た目通りには行かない





「しゃ、社長!」



呼ばれて振り返れば二人の女が立っていた
受付嬢の二人だ



「川口さんとお付き合いされてる噂が流れてます!
ご実家に挨拶に行って近々結婚するとかまで」


そんな噂になってるのか
これ、麗ちゃんも知ってるのだろうか


噂が先行すると何だか嫌な気分になるだろうな

あれから何度か二人で食事はしたりしているみたいだが進展はない
いい年した男女の付き合いとは思えない

もしかしたら、尊はまだ、ちゃんと麗ちゃんに気持ちを言えてないのではないだろうか


「社長……時間です」


俺は低めの声で伝える
尊は頷き、二人を無視して立ち去ろうとした



「あ、あんな企画課ごときの女性と社長のお付き合いなんて噂は社長の品位に関わります!
噂は私たちがきちんと否定しておきます!」


あんな?ごとき?
ピクッとこめかみに力が入る


「その必要はない」

それは尊も同じだったみたいで
地を這うような尊の低い声に二人の肩が上がった



「す、好きなのでしょうか?き、気持ちが無いのにお付き合いされては可哀想です!」


きっと、尊の事を狙ってるのだろう
綺麗に着飾った女
受付嬢なのだからこの会社内でもトップクラスの容姿だ



「お前に言う必要ない」


尊はそう言って去って行った
俺は二人に向かって一つだけ



「その噂にさ、社長が溺愛してるって付け加えてて」

「え?」

「じゃあね、お疲れ様!」



俺は軽くそう言って、尊を追った


うわっ!やっぱり怒ってる
はぁー、これから会食だぞ?
こんなオーラで行かれたら纏まるものも纏まらない


俺は渋々携帯をとり電話を掛けた



「社長、一旦時間まで戻りましょう」



電話を掛け終わり、尊にそう伝えた
尊も俺の口調から拒否はしない


俺は前を歩く尊を見ながらまたひとつため息を溢した


麗ちゃん、ごめんな


「尊………ちゃんと気持ち言ってやれよ」




< 56 / 98 >

この作品をシェア

pagetop