ほんもの。

その言葉に、胸が詰まった。

「俺の前から居なくなっても、生きててほしいって思った。改めて」

「……しないけどね。寧ろ安藤の方が私のこと呆れて捨てるかも」

「きゅうりが切れないとか」

「卵焼きが作れないとか」

卵焼き強敵だな、と抱きしめて笑うので、その振動が伝わる。
同じくらい、その声の震えも伝わった。

私も泣いていた。

その傷口から血はもう流れていない。
でも、私だけは目を逸らさないでいようと思う。

「明日、卵焼きの作り方教えて」

そう言うと、返事よりも先に唇を塞がれた。
答えは、肯らしい。



その傷口まで愛して。
END.

20180615

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