君は太陽
「結衣、俺と一緒にいても、時々寂しそうな顔をして遠くを見ている時があったからさ。もしかしたら、何か言いたいこととかあるのかなって思ってた。でも、俺にとって聞きたくない内容だったらって思うと怖くて、聞けなかった。俺がちゃんと聞いてたら、結衣も答えられたかも知れないのに」

「何を言ってるの。松嶋くんは何も悪くないよ。私が、言わなきゃいけないのに黙っていただけだもの」

「だからさ、結衣。これからは、思っていることは口に出そう。遠慮はしない。わかった?」

「……うん」

私がうなずくと、松嶋くんは嬉しそうに微笑んだ。

「ねぇ、松嶋くん」

「ん?」

「どうしてここに私がいるってわかったの?」

瑞穂ちゃんに色々聞いたとは言っていたけれど、私が虹島にくることは彼女も知らなかったはず。

今までこの島の話さえもしてこなかった私たちなのに、なんで松嶋くんはここに来てくれたんだろう。

心に湧いた素朴な疑問を口にすれば、松嶋くんは優しく笑って、顔を後ろに向けた。

「それは、あの人が教えてくれるよ」

視線の先には、五十代くらいの男性の姿があった。

お腹なんか出ていなくて、姿勢もスッとしている凛とした姿のその人が、私たちのほうにゆっくりと近づいてくる。

「結衣、紹介するよ。俺の両親の古くからの知り合いで、逢沢さん。逢沢自動車の社長をやられているんだ」

逢沢自動車といえば、日本でもトップの自動車メーカーだ。

逢沢社長の顔は、私もテレビや雑誌で見かけたことはあるので、存在自体は知っていたけど、まさかこんなところで会うなんて。

でも、私と逢沢社長に接点なんてないはずなのに、松嶋くんが虹島に現れたことと何の関係があるんだろう?

首を傾げていると、近くまでやって来た逢沢社長の目がまぶしそうに細められた。

「こうして見ると、目元のあたりが俊美さんにそっくりだ」

「母を知っているんですか?」

「ああ。よく知っているよ」

母のことをよく知っている……、大会社の社長……。

それって、もしかして……。

ひとつの結論にたどり着いた私が、隣に立つ松嶋くんの顔を見上げると、彼は大きくうなずいた。

「松嶋くん。もしかして……」

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