嘘つきな君
「分かってる。神谷一族で成り立ってきた会社だ。残りは俺しかいない事は重々承知している」
「――」
「大丈夫だ。この会社を捨てたりはしない。ただ……間が差して、そう思っただけだ」
私を安心させるかの様に、瞳を柔らかく細めた彼。
その表情に、安堵が込み上げる。
「みんな……常務の事頼りにしてます」
「まだ、見習いも同然なのに?」
「人間としてです。この人なら、ついていって大丈夫って思わせる力が常務にはあるんです」
「――」
「常務は、この会社に必要です」
何故か必死だった。
彼がどこかに行ってしまう様な気がして。
この会社を、私達を捨てて、また映画の世界に帰ってしまう気がして。
そう思うだけで、怖くて堪らなくて。
気が付いたら、彼のスーツの袖を掴んでいた。
「あ……すいません」
その事に気づいて、恥ずかしさのあまり慌てて手を離す。
そして、行き場を無くした手をソファーの上にオズオズと置いた、その時。
「――っ」
突然、暖かな手が私の手の上に重なった。
驚いて伏せていた瞳を上げると、私の手の上に自分の手を重ねた彼と目が合った。
黒目がちな瞳が、月明かりに照らされて輝く。
ドクドクと心臓が早鐘の様に鳴る。