嘘つきな君
パタンと常務室の扉を閉めた途端、思わず深い溜息が出た。

それでも、訳の分からない感情に飲み込まれる前に自分のデスクへと急いだ。

モヤモヤと渦巻く気持ちを振り切る様に。


大人になるってこういう事なのかな。

演技が上手くなるっているか。

嘘の笑顔が上手くなるっていうか。

上辺だけで過ごせるというか。


いや……それとも――。

自分の気持ちを殺す事が、上手くなるのかも。


昨日から湧き上がる、この気持ち。

何をしていても、常務の事が頭をよぎる。

昨日の談話室で告げられた彼の本当の想い。

辛そうに歪めた、彼の泣き出しそうな顔。

そして、あの時重なった大きな手。


何もかも、何度もリフレインして。

私の胸を締め付ける。


だけど、それと同時にブレーキがかかる。

これ以上踏み込んじゃいけないって、心にブレーキが。
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