嘘つきな君


今、目の前で言われた言葉が俄かに信じられなくて、ポカンと口を開けたまま目の前の男性を見上げる。

すると、私が人間の言葉を理解できないと踏んだのか、小さく溜息を吐いて隣を通り過ぎて行った男性。

そして。


「お子様は早く帰って寝ろ」


最後に吐き捨てる様にそう言って、去って行った。

ついでに、舌打ちも加えてだ。


カツカツと鳴っていた革靴の音が、徐々に聞こえなくなっていく。

それでも、茫然とその場に座り込んで状況を理解しようと奮闘する私。


何? 今の……。

え、どういう事?

邪魔って、え? それ私の事?


止まっていた思考回路が徐々に動き出したと同時に、ジワジワと怒りが湧き起こる。

ポカンと開けていた口を噛み締めた瞬間、般若のような顔になった。


ありえない!

人が倒れているのに、何あの態度っ!

私、女だよ? 一応だけど、女だよ?

それが倒れ込んでいたら、普通手でも差し伸べる事が普通じゃない!?

せめて、大丈夫? くらい声かけるのが普通でしょ!

え、普通じゃないの!?


酷い!! 悪魔!! 最低!!

ちょっとカッコイイからって、ときめいた自分が馬鹿だった!!  愚かだった!!


徐々に上がってきた怒りのボルテージが頂点に達して、体の痛みも忘れて勢いよく立ち上がる。

そして、男が消えていった方向に向かって大声を発した。


「誰が子供だっ!! 私はもう26よっ!!」


渾身の力でそう叫んで、ドスドスと足音を鳴らしながら店の中へと向かった。


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