嘘つきな君

あなたの側で


「おはようございまーすっ!!」


満面の笑みで会社のロビーを闊歩する。

頬の緩みを押さえる事なく、そのまま自分のデスクに着いた。

すると。


「うわ、分かりやすっ!!」

「んふふ~そうですか?」


隣の席に座る秘書課の先輩が、苦笑いで私の方に視線を向けた。

まぁ、我ながら同じ事思うから否定はしない。


「何いい事あったの~?」

「ん~。久しぶりに綺麗な夜景を見たんです」

「夜景1つで、そこまで上機嫌になれんの? 芹沢って」


軽い尊敬の眼差しで見つめてくる先輩に微笑みかけながら、デスクの上のメモに目を通す。

なんだろう。

このヤル気に満ち溢れている自分は。

何もかもが輝いて見えるのは、きっと彼のおかげ。


「あ、神谷常務だ!」


根掘り葉掘り聞こうとしていた先輩が、パッと顔を上げて頬を染める。

その視線の先には、いつもの様に数人の部下を引き連れて何やら話している常務。


「相変わらず、素敵だぁ~」

「――はい」


思わず一緒になって見惚れてしまいそうになって我に返る。

慌てて緩んでいた頬をキッと持ち上げて、近づいてくる重役達に頭を下げた。


「おはようございます」

「おはよう」


その声を聞いて、ゆっくり視線を持ち上げると、書類を片手に持った常務と目が合う。

その瞬間、小さく心臓が跳ねて無意識に頬が緩みそうになる。
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