嘘つきな君
思わず見惚れた私に、彼はお得意の不敵な笑みを零す。


「顔真っ赤だけど」

「驚いただけです!!」

「ふ~ん」

「初めて会った日も思いましたけど、本当一言多いですよね」

「お互い様だろ」

「――っ!!」


相変わらず余裕な表情のまま、スタスタとテラス席を縫って店内へと歩いていく常務。

その後ろ姿を見て、思わず地団駄を踏みたくなる。


私の動揺している姿を見て、楽しんでる!!

それに、何よ、あの余裕な笑みはっ!!

いちいちバクバク心臓鳴らしてる私はバカみたいじゃん!!


それでも――。


もっと彼の事を知りたいと思うのは、どうしてだろう。

もっと、話していたいと思うのは。


振り返って、早く来いと悪態をつく彼に向かって勢いよく溜息を吐く。

それでも、どこか胸の奥がポカポカしている。


無意識に、さっき彼が僅かに触れた頬を指で触る。

あの人といるとペースを乱される。

なんだか、あの人の掌の上で転がされている感じ。

というか、完璧玩具扱いされてる気がする。


「何なのよ。もうっ」


自分の中に生まれ始めた感情に戸惑いながら、足を前に出す。

そして、大きな背中を追って駆けだした。

どこか心に暖かさを感じながら――。


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