朝、目が覚めたらそばにいて
「山下、今日はデートか」

ほら来た!

「そんなもんです」

サイン会だって愛しい人に会いに行くというデートと同じようなものだ。

「小説家のサイン会でしょ」

沙也加が暴露する。

「何だお前、急いで帰る準備しているからデートかと思ったら、また何かの追っかけか」

「違います!追っかけじゃなくて…」

そこまで言いかけるとスマホのアラームが鳴った。
こんな時のためにアラーム設定して「時間がきました」アピールをする。

「課長、明日はまた頑張りますので、お先に失礼します」

バッグにスマホを突っ込み、隣に座っている沙也加に「また明日」と言って席を立つ。

「ま、普段から仕事はちゃんとやってるから文句はないが、変な男に引っかかるなよ」

課長が私の背中越しに言葉を投げた。

「ご心配には及びませーん!お先に失礼しまーす」

女性で私服なのは営業部や秘書課の人だけ。総務部はだいたい制服だ。
サイン会は整理券順。
なるべく早く並びたい私は職場を飛び出した。
廊下に出たところで人にぶつかりそうになる。

「あぶね!」

登坂くんだった。

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