朝、目が覚めたらそばにいて
「うん、帰ったら大人しくしてる」

「えっ?帰ったらって、あんた家じゃないの?」

しまった。失言で余計な心配をかけてしまう。

「あ、ううん、家だよ。やだ、沙也加、何言ってるの!」

「…定時終わったら行くから、待っててよ」

「えっ、あっ、沙也加!」

電話は切れた。
よく考えたら沙也加は仕事中だ。
抜け出してこっそり電話をしてくれたんだろう。長話はできないのは当たり前だ。

スマホを持ったまま、頭を抱える。
まずは部屋を出ないと。
辺りを見渡して着ていた服を探すと、ワンピースとスプリングコートは別々にキレイにハンガーに吊るされていた。

それを確認してから洗面所へ向かう。
鏡に映った顔を見てぎょっとした。


ひどい…

目は腫れ、顔はパンパンにむくんでいる。
こんな顔見たら、正太郎さんだって逃げ出したくなるよ。
花粉の季節にはいつも持っているマスクをしてしまえば少しはごまかせるはずだ。
とにかくうちに帰ろう。

一時間もしないうちに部屋を出る。
チェックアウトをすると精算済みだということがわかった。
正太郎さんが済ませてくれていたのだろう。


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