朝、目が覚めたらそばにいて
なんだ、そういうことなら最初から教えてよ。
スマホを胸に抱えたまま、目を瞑る。

優しい腕の中も、温かいぬくもりも、ほのかな匂いも一夜の夢だったんだ。
小説のように一夜の過ちから恋に発展することなんて現実にはないってことなんだ。

「環奈?大丈夫?」
それ以上は何も言わない。
事の成り行きをそばで見ていた沙也加は察しているのだろう。

「夢は夢のままだったみたい。小説みたいなことが起こるなんて夢みたいなことばかり考えてるなってことだよね。いつも沙也加が現実を見なさいって言ってた意味がわかった気がする」

「環奈…」

沙也加の顔が歪む。

「沙也加、そんな顔しないで」

フーッと息を吐きながら、悲しそうに笑う沙也加はやっぱりきれいだな。
あれ、なんで沙也加の顔はぼやけたままなんだろう。
ああ、そうか、私、泣いてるんだ。

恋とは呼べないほどの時間。
書店で偶然出会った正太郎さんと再会したとき、まるで運命のように感じていた。
このまま恋に発展するんじゃないかって密かに夢見ていた。
現実はそんな簡単にはいかない。
夢は夢のままだったんだ。

その夜、泣き止まない私を置いて帰れないと沙也加はずっとそばにいてくれた。

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