ロマンスがありあまる
「――遠野さん」

専務が私の名前を呼んだ。

「――は、はい…」

返事が遅れてしまっていないだろうか?

声は大丈夫だろうか?

変な声になっていないだろうか?

そう思っていたら、
「この辺で切りあげることにしようか?」
と、専務が言った。

「そ、そうですね…」

私が返事をしたことを確認すると、専務が出口に向かって歩き出した。

よかった、大丈夫だったみたいだ…。

出口に向かって歩いているその背中を追いかけながら、私は思った。

何か言われたらどうしようと、思っていた。

それに対して答える自信が私の中にはなかった。

とにかく、何も言われなくてよかった…。

そう思いながら、私は専務と一緒にパーティー会場を後にしたのだった。
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