こんな恋のはじまりがあってもいい
それからというもの。
俺はミキという彼女との時間を、とても楽しく過ごした。
部活があろうとなかろうと、放課後には待ち合わせて
一緒に帰る事が当たり前になっていた。

きっと、モヤモヤとした気持ちは
今まで三人でつるむのが当たり前に思っていたからだろう。
そこへ、俺とミキの距離が近づいたタイミングで
真野とか言うヤツがちょいちょい顔出してくるもんだから
変にバランスが崩れただけだ。

人は皆変わるもの。
三人のやり取りも楽しいけど、別に今も悪くないーーー

そう、思うようになっていた。


そんなしばらく経ったある日のこと。
いつものように二人で手を繋いで帰る途中
「……市原と気まずい?」
ミキの元気がないように思ったので、それとなく小突いたら
そんな話が溢れてきた。

彼女は俯いたまま
「あかね、気づいてるのかもしれない」
「…………」

別に抜け駆けしたつもりもなければ、騙したわけでもない。
言う必要がないと思ったから、言ってなかっただけだ。

なのに、どうして
この罪悪感のような気まずさは一体何なのか。

「……俺から言おうか?」
それはそれで、とても勇気のいる事なのだけど
気まずい思いをしているのなら、早めに解決してやりたい。

だけどミキは首を振り
「ううん、自分でなんとかしたい」
と言った。
もう、俺にはどうする事もできない。

「……そうか。」
少しの間、空を見上げて深呼吸する。
この事を話したら、アイツはどんな反応をするんだろうか。

きっと、笑顔で『おめでとう』なんて言うだろう。
そして変に気を回して、『後はお若い二人で』とか
言い出す気がする。

変にリアルに想像してしまって、少し笑いがこみ上げてきた。
肩の力も抜ける勢いだ。
ミキの肩をそっと抱き寄せて、ポンポンと軽く叩く。
「なあに、大丈夫だって。アイツはそんなんで怒ったりしないだろ」
「……うん」
少し擦れた彼女の声を聞いて、なんだか切なくなった。


友達とか親友とか
男とか女とかって
ややこしいのな。


もっと、気楽なスタンスがあればいいのに。
今までどおり三人でバカな会話して楽しくやれれば
それだけでいいのに。

そしてきっと
市原となら、それができると思う。
今までどおり、これからも。

そう思うのは、俺の勝手なんだろうか。

彼女を肩に抱いたまま、俺は少し痛む胸の傷の正体に
気付かないふりをし続けた。




それから数日後。
市原にちゃんと話せたとミキから聞いた。

「良かったな」
これでもう、お互い変に気を使う事もなくなるだろう。
「うん、ありがとう」
良かった良かった、とウンウン頷く俺を見て。

「……真野くんがね、圭太くんと同じ事言ってたよ」
「……真野が?」

どうしてそこでその名前が出るのか

「うん、あかねと私はそんな事で壊れる仲じゃないでしょって」
「へえ、良く知ってるんだな」

冷静に。
カチンとくる謎の苛立ちに流されないよう、
自分にそう言い聞かせながら彼女の話を聞く。

「……真野くんはねえ、あかねの事が気になってるんじゃないかな」
「……え?」
「だってホント最近よく話してるの見かけるし、ノートも借りてるし」
「だよな」

似てるんだよ、そういうところ。
だからイラつくのかもしれない。

「……圭太くん、怒ってる?」
「え、なんで」
「なんとなく。声が」
「そうか?」

すっとぼけたけど、どうやら態度に出ていたようだ。
「……ごめんね」

ミキは何故あやまったのだろうか。
その言葉が何の意味を持つのか、聞くような雰囲気でもなく。
俺はそのまま、気付かないフリをして
「とにかく、二人が喧嘩とかしてなくて良かったよ」
と、話を切り上げ
別の話題にすり替えた。

俺が、この話題から遠ざかりたかっただけだった。
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