こんな恋のはじまりがあってもいい
よく分からない彼と自分の感情
あれから。

圭太は何も変わらず、ちょこちょこ教室に来ては私とミキにくだらない話を投げかけて去っていく。
アイツ本当はニブいのかもしれない。

私とミキちゃんは、これまでのぎこちなさが無くなった。
やっぱり、話し合うって大事だ。

それだけで、とても平和な日のような気がする。

真野くんとのことは、気にならないといえば嘘になるけど
ミキは圭太と付き合ってるなら、彼とは何もないわけで。

でも、あの時。
何を話していたんだろう。

聞いてしまえばいいのに、と自分でも思う。
話し合うことが大事って、学んだはずなのに。
矛盾してる。

自分でも呆れる。

はあ、と軽くため息を吐いて、授業のノートを取る。
先生の話に集中したいのに、心はどうもそっちには興味がないようで。
つい同じことを延々と考えてしまう。

「ーーで、市原。次のページ読んで」

「えっ」

突然当てられて、頭が真っ白になった。
やばい、聞いてなかったのがバレたか。

冷たい手で教科書を持つ。
「えっと…」

言われたページを開いてはいたはずだけど
どこから読むのかサッパリだった。

どうしよう。

その時ーーー

「あれ?今どこ読んでたっけ?」

わざとらしく聞く声がした。

「も〜真野くん、もしかして寝てた?真ん中3段落目のところだよ」
隣の席のミキが、笑いながら彼に返事をしていた。

「はは、ちょっと意識飛んでたね〜」
周りがクスクスと和んでいる。

(助かった)

私は軽く咳払いをして、何事も無かったかのように
指定された箇所を読み上げた。

ナイスタイミング。
二人ともありがとう。

チラリと振り返ると、
こちらを見て目配せしていた。

私も笑顔で返し、素知らぬフリをして席に着いた。

助かったけど、
やっぱり二人の息の良さに
変な違和感を覚える。

真野くんは、ミキが好きーーなんだよね、きっと。
でもミキは…

複雑だなあ、とひとりごちて。
私は次こそは脱線しないよう、意識を教卓に向けた。




放課後。
一人で帰ろうとすると、靴箱の前で

「市原」

後ろから呼ばれて振り返る。
真野くんが、立っていた。

「あ、真野くん!さっきはありがとうね〜助かったあ」

忘れないうちにお礼を伝える。
二人のコンビネーションにはとりあえず感謝している。

「さっき?」

「ほら、授業で教科書の…」

ポカンとする彼に説明すると、やっと思い出したようで

「あ〜、あれか!別に何もしてないけど?」
「いやいやそんなご謙遜を」

冗談めかして手を左右に振ってみる。
あれ?このパターンはもしかして

「え?寝てたら市原が当てられる声で目が覚めてさ、やべえと思って吉野に聞いただけだぜ?」

「…マジ?」

「うん。てか『助かった』って…市原も寝てたの?」

マジらしい。

「あたしは寝てないけどボーっとしてて、ウッカリ当てられたから焦ってたんだよ」

理由を話すと彼は手をポンと叩いて
「なるほど!それでか〜!うんうん、それはタイミング良かった」

「え、今気づいたの?」

「そう」

嘘。

この人ほんと謎……
分からない。

でも、まあ面白いから
いいや。

「そうか〜まあそれならそれで。結果私も助かったから」

あはは、と彼の肩を軽く叩き

「ありがと」

とだけ伝えた。


なんとなく、あの放課後の二人を見てから
モヤモヤしてたんだけど

こうして話すと、気持ちがほぐれる。
心が軽くなった。
そういう意味でも、彼に感謝したかった。

「おーなんかよく分かりませんが、感謝されてるのだけは伝わった」

「うん、それで良し!」

そう言いながら一緒に校門をくぐる。
自然と、二人で歩いて帰る。

「あ、じゃあさー感謝ついでに」

「何?」

「ココア買って」

「はい?」

「俺さ〜今日サイフ忘れて。寒いじゃん?」

手を合わせてお願いのポーズを取る彼が少しかわいく見えてしまう。
まあこの間から奢ってもらってばかりだし。

「ふふ、じゃあ今日は私が買うね」

すぐ側にある自販機でココアを2本。
あんなにしばらく飲みたくないと思った甘い味。

すぐに飲んでしまった。

「おーさんきゅー」

彼は嬉しそうに缶を振り、プルトップを開ける。
一口飲んで幸せそうに空を仰いだ。

「はー、やっぱうまいわ。あったまる」

その姿がなぜか
眩しく見えて。
こちらまであったかくなってしまった。

こういうのを癒し系って言うのかしら。

寂しいモンどうし、仲良くしよう。
声には出さなかったけど
こうしてしばらく二人で居たいと、素直に思った。
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