初恋にふさわしい人を待っている。
秋月先生に言われたことが気になって授業に全然身が入らなかった。やっと4時間目の授業が終わり昼休みに入ると、私の机に女子達が集まってきた。

「東雲さん、よかったら秋月先生の手伝い私達で行ってこようか?」

「ていうかプロフィールに何を書いたの?」

どうやら私が先生の手伝いをすることが気に入らないらしい。若干苛立ちを隠しきれていない人がちらほらいる。ここはなるべく穏便に済ませようと決めた。

「実は、特技のところに雑用って書いたの。そしたら秋月先生がじゃあ手伝って欲しいって。あと、初っ端から別の人に代わったらさすがに先生もおかしいと思っちゃうんじゃないかな。今度機会があったら代わってもらおうと思うんだけど…だめかな?」

そう言えば彼女達は納得したように引き下がっていった。

お弁当を急いで食べ終え、国語準備室へ向かう。校内は秋月先生の話題で持ちきりだった。

「秋月先生、いらっしゃいますか。東雲です」

ドアを軽く叩くと、暫くしてから静かに開いた。本当は怒られるんじゃないかってドキドキしている心を押さえつけ、中へ入った。

「あの、先生……」

「何も言わなくても大丈夫ですよ。分かっていますから」

「えっ…」

秋月先生は素早く私の後ろに回り込み、扉の鍵を閉めた。

「あの…?」

うつ向いて表情の見えない先生を不思議に思い声をかけると、次の瞬間予想外の顔を見せる。

「誰がセクハラだって?取り消せ」

1時間目に見た、あの意地悪な顔だった。

「せ、先生?」

「取り消すのか取り消さないのか、言え」

「いや、え?先生口調が…」

おかしい、とまでは口に出さなかったものの、充分伝わっただろう。先生は、ふうっと息を吐いた。

「おい質問を質問で返すな。今質問しているのは俺だ。さっさと答えろ」

言いながら椅子に腰掛け脚を組む様が、悔しいけれど綺麗だった。

「取り消します…すみません」

「分かればよし」

「あ…」

その言葉は、先生が私を注意した時にも言っていた。なんて意識してしまって、つい恥ずかしくなって目を逸らした。


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