エリート外科医と過保護な蜜月ライフ
「遅かったね、久美ちゃん。もしかして、兄貴に会った?」

部屋へ戻ると、先輩がそう言ってきた。口元は微笑んでいるけれど、目は笑っていない。

気まずさを感じながら席に着く。

「すみません。化粧室が混んでいたもので……」

言い訳が通用するか分からないけれど、本当のことは言いづらくて誤魔化してしまった。

「そっか。てっきり、兄貴に会ったのかと思った」

もし、先生に会っていたと話せば、先輩はなんて言うのだろう。そう考えるのも苦痛で、私はなるべく落ち着いて彼に切り出した。

「先輩、そろそろ失礼してもいいですか? 明日も早いので……」

「ああ、そうだね。今夜は、付き合ってくれてありがとう」

思っていたより、先輩はすんなりと受け入れてくれてホッとする。それから会計に向かうと、先輩は私も半分払うという申し出を断り、ご馳走してくれた。

「先輩、ありがとうございました。ご馳走さまでした」

ホテルを出たところで、先輩に挨拶をする。先生はまだいるのか分からないけれど、姿は見かけなかった。

「いいよ、俺から誘ったんだし。それより、本当に送らなくていい?」

「はい、大丈夫です。お気遣いをありがとうございます」
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