届かぬ想い
梅雨のこの時期はじめじめしてまとわり付く空気が気持ち悪い。

さっさと家に帰ってシャワーを浴びて自分のベッドで眠りたい。

誰にも邪魔されずに

一人で。




タクシーを捕まえようと大通りに出ると、あの時と同じように

いや、あの時と違う今日は一人だ。


アヤノが一人、足早に歩いてくる。

ヒールの音を立てながら――――――


派手な女という第一印象から今では嫌な女に変っていた。

もちろん関わらずにそのまま通り過ぎてくれればいい、そう思った。


アヤノはわき目も振らずにただ前を向いて歩いている。

……と思っていた。
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