届かぬ想い
初めて自分の部屋だと言われた場所に足を踏み入れる。

八畳ほどのそこにはベッドとデスクに椅子、それとなにも入っていない本棚が置いてあった。


「なんだよ、これ……」


なにも言わず揃えて

なにも言わずに今まで



相手を思いやっても、言葉に出さなければ伝わらない。

言葉が足りなかったのは、親父も俺も一緒なのかもしれない。




その夜、まだ成人していない俺に親父は一杯だけ付き合えと言い酒を一緒に飲んだ。


「成人したら外でな」


そう言って笑った親父の顔にはいつの間にか皺が増え、黒かった髪も白髪がチラホラ見えだしてきていた。

俺の記憶の中の親父は、小学生のときに見ていた親父のままで止まっていたから違和感があった。

いつの間にか背も俺の方が高くなっている。

7年。親父と向き合うまでにそんなにも時間がたってしまっていた。


だけど俺は、あの言葉がなかったら今でも向き合うことをしていなかったかもしれない。


アヤノ……

お前は今どこで誰と過ごしているんだ?
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