続*もう一度君にキスしたかった
真帆に出会うずっと前、僕は一度だけ、初めて自分から好きになった女性がいた。
大学で出会った、ひとつ年上の、けれど年上とは思えない可愛らしい人だった。
ただ、この女性には既に恋人がいたものだから、僕も多少ちょっかいをかけて軽口を叩く程度に仲良くなっただけで、それ以上深追いすることはなかった。
それからも、何度か付き合ったことはある。
だが常に向こうから来て、去っていくときは引き留めない。
勿論、付き合っているときは大事にしたつもりだし、浮気をしたこともない。
だけど女性たちも馬鹿ではなくて、執着しない嫉妬もしない僕に、やがていつも愛想を尽かして離れていく。
「……そう。わかった」
あっさり別れを受け入れる僕に平手打ちを食らわしていく人もいた。
真帆との別れも、これまでと変わらない。
そう思っていたのに、別れた当初彼女は毎夜夢に現れた。
こんなにも、離れがたい。
けれど、別れた後、伊崎が常に傍にいて励ましていたことも知っていた。
それでもたった一度だけ、彼女に電話をしてしまったことがある。
大阪に発つその日だった。
短いコール。
彼女は出なかった。
向こうに行く前に、もう一度だけ声を聞きたくて、けれどすぐにその図々しさに後悔して切ったのだ。
折り返しすら、鳴らなかった。
それでいい。
それだけ彼女を傷つけたのだと、自分によく言い聞かせる機会になった。