【完】恋歌


彼には分からなかった。
けれど、最早甘い果実を噛んでしまったかのように、彼女に触れてしまった彼は、熱い熱い胸の内を吐き出した。



「ねぇ…凜音?オレはね…?貴女を待ってたんだよ?もうずっと。気が遠くなるくらい、ずっと…」


その熱の篭った言葉に、ぴくりと彼女の背中が揺れた。


「愛しい人…待ってたんだ…此処で、このまま一人きり…」

「何人もの犠牲を出してきただろう」


彼女の言葉は的を得ていた。
けれど、彼の言葉は更に続いていく。


「埋まらない心を、最大のアイで埋めてくれる人」

「いい加減にしろ…私はお前の玩具になるつもりはない」


< 64 / 79 >

この作品をシェア

pagetop