《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「……アイツ、まさかルゥアンダ帝国の間者…」

 その時、突風が吹き抜け樹々を揺らしメルティオールの言葉を遮った。

「ゥワアッ!! 何!? 物凄く揺れるンだケド!? コレ大丈夫なのカ?」

 吊り床は突風に煽られ、壊れた時計の振り子の様に激しく左右に揺れる。

「夕暮れ前のこの時間になるとよく吹く風なんだ。直におさまるし大丈夫だよ」

「怖ッ! ムリ!! ボクもう降りるからね」

「そうですね。結構時間も経ってますしそろそろ戻りましょう。手をお貸ししましょうか? メルティオール様」

「イラナイ! 自分デ降りられる!!」

 登る時同様、騒ぎ立てながらやっとの事で地面まで降りてきた。

「あはは、面白かった! ジュリとメルテもすっかり仲良しだね」

「ハア?! ダレとダレが仲良しなワケ? ボクはこんなトモダチなんて要らない…」

「友だちって思ってくれたんだ!」

 ラインアーサに人懐っこい笑みを向けられ逃げ場を無くしたメルティオールは観念したかの様に呟いた。

「うっ…まあ、オマエタチみたいな関係は少し羨ましく、思わなくも……ないケド」

「俺はメルテと仲良くなれて嬉しいんだ! ジュリだってそうだろ?」

「俺も光栄です」

「フン! ボクには年の離れた姉共しか居ないからな。オマエタチと気兼ねなく話せるのがチョット楽しかったのは認めてやる! デモ……。ダメだ」

「何が?」

「……皆がボクと仲良くしたいのはボクが皇子だからダ。ホントウのボクと仲良くしたい訳では無いコト位分かってる。信じたら裏切られるだけだカラな。……皆ボクのコトを不幸でイヤな奴だと思うだろうケド自分以外は所詮他人。信用出来無いし、期待もシテ無い」

「そっか! それでもいいよ。でも俺はメルテの事を嫌な奴だなんて思わないし、信じるよ! 言いたい事があったら今日みたいに気兼ねなく言えばいい。俺はメルテの事もう友だちだと思ってるもん」

「……アーサ、お前バカなの?」

「えー! そんなつもりないけど?」

「あはは。アーサはこういう奴なんですよメルティオール様」

「やっぱりバカだ。いつかヒドイ目にあっても知らないからナ!」

「その時はその時だよ!」

 ラインアーサは頭の後ろで両手を組んであっけらかんと笑っている。

「まあ、そうならない様に俺が付いてます」

「アッソウ。お前も中々苦労シソウだな、ジュリアン」

「!!」
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