《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】

「───先輩。そろそろ何か教えてくださいよ」

「……何をだ」

「んー、例えば好きな食べ物とか、得意な技とか?」

 一日の課程をこなし夕餉(ゆうげ)を済ませたジュリアンは寝支度をしながら既に床に入りかけていたクロキに質問をした。

「……またそんな事か、くだらない。明日も早い、寝過ごしたく無かったらもう休め」

「はーい。あ、でも俺わりと朝は得意なんです! 先輩も得意な方ですよね?」

「煩い。灯りを落すぞ」

「ああ。待ってください! まだ開けてない荷物があって……少しだけ、そんなに時間は取りませんから」

「……」

「ありがとうございます!」

 無言で部屋の照明に背を向けたクロキだが、それを了承と見なしジュリアンは少し大きめの荷物に手を伸ばした。

 訓練所の寄宿舎に入って早一週間。王宮から持ってきた荷物はそれ程多く無いが、慌ただしくしていた為荷解きしていない物がある事に先程気づいたのだ。
 荷を解くと中から美しく装飾された箱が出てきた。何処か見覚えのあるその箱の蓋に手紙の様な物が挟まっている。

 少し厚手のその紙には嫌という程見慣れた、それでいて懐かしい几帳面な文字が綴られていた。

『そなたの好物を入れておきました。
何事にも心を落ち着かせて行動するように。
良い結果を導くのは己の強い心です。

──敬意を込めて。ジュストベル』

 箱を開けると中には茉莉花の茶葉が入った茶筒が数本と専用の茶器や道具が一式入っていた。

「……っジュストじい様…!」

 手紙を裏に返すと茶を淹れる手順が事細かに書かれており、ジュリアンは思わず吹き出した。

「なんだ、さっきから騒がしいぞ」

「すみません…! 俺ももう休みますね」

 照明を落とした薄暗い部屋の中でも、ジュストベルに贈られた箱は何となく輝いて見える。それ程に嬉しさを隠しきれないジュリアンだったが、その思いを抱いたままこの日は床に就いた。


 早朝。クロキよりも先に目を覚ましたジュリアンはジュストベルの記した通りの手順で早速茉莉花茶を淹れてみた。
 勿論自分でお茶を淹れるのは初めての事でジュストベルの様に上手く出来たか分からない。それでも湯気と共にふわりと広がる茉莉花の香りがジュリアンの心を和ませる。

「へへ、初めての割には上出来じゃん!」

 ジュリアンは香りを十分に堪能しつつお茶を飲みながら、ジュストベルにお礼の手紙を書くべく筆を取った。
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