悪魔なアイツと、オレな私
治人


レオの記憶操作の話は、どうやら本当だったらしい。
今までの交友関係が、差し支えない程度に変わっていた。
亜里沙と共に話していた女子たちよりも、治人と一緒に遊んでた流れで仲良くなった男子達と今は行動している。




「今日も朝練きつかったー。な?治人」




休憩時間に治人の席の前に集まって騒いだりする。治人の所には男女問わず、休憩になるとクラスメイトだけでなく、他クラスからも人は耐えない。



「きつかったー。俺、喉乾いてるんだけど、ジュース奢って」



「自分で買えよ」



「無理、今日財布忘れて今ポケットに入ってる30円しかない」



頭をかきながら笑っている治人の周りで、どっと笑いが起きた。証拠にとばかりに手に持った小銭を見せて自虐談義で盛り上がる。




その様子を傍観していた千秋に気づいたのか、勢い良く立ち上がった。




「千秋!」


「うわっ!は、治人!?」




遠慮も距離感も無い治人は、腕で千秋の肩を捕まえる。
記憶操作のせいもあってか、彼の無意識スキンシップは何時もより酷くなっている気がする。
動揺しないように心がけるものの、動悸はパニック状態だ。






「千秋、頼む!ジュース代貸して!今度、俺が奢るから」




「わ、わかった!分かったから、離れて……じゃなくて、離れろよ」



でないと、頭が沸騰しそうだ。
千秋は平然を装いながら治人の腕を無理矢理に引き剥がした。





その様子を少し離れた場所から、レオが面白そうに眺めている視線を感じていたが、今はあの馬鹿に構っている暇はない。




男言葉を心がけながら呆れた視線を送ると、治人は顔の前で手を合わせて苦笑している。



「本当か?ありがとな、千秋!お前は本当、あいつらと違って優しいよ」




屈託の無い笑みに心臓が跳ねたものの、忘れてくるのが悪いだのの外野の野次に直ぐに治人は愛想良く返事をする。




こういう無意識に誰にでも愛嬌のある治人は、本当にずるいと思う。
勘違いして好きになってしまう女子は、千秋だけではなかったはずだ。





無意識と分かっているのに、無駄に期待するのは惚れた弱みというやつなのか。






「ほら、行くぞ。治人」




「ん?お、おう」




千秋は、治人の腕を引いて溜め息混じりに自動販売機の方へと向かったのだった。
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