悪魔なアイツと、オレな私

「こうなったら、何がなんでも治人を振り向かせて見せる!」

「二度もフラれたのに、お前もしつこい女だな……ぐはっ!」


余計な事を口にする悪魔を自慢の右ストレートで取り敢えず黙らせてから、再び本題へ戻る。

「この姿じゃまず難しい……、だから、亜里沙にはどうにか別の人を好きになって貰う作戦から進める」


「……だから、それはお前の可能性だって……」

「もっと別の人!」


深い溜め息を溢したレオだったが、部屋の窓を開けて空を見渡している。
途方にくれているのか?こっちは結構真面目に作戦を立てているのに失礼な奴。

「レオ!協力する気ないなら、せめて大人しくしてて!」


「……協力してやる。今、頼もしい助っ人を呼んでやるから待っていろ」

「?」



いきなり窓を開けて助っ人を呼ぶだの、嫌な予感しかしない。
悪魔の類いと大好きな親友を取り持つわけにはいかないというのを、目の前の男はわかっているのだろうか?
レオが窓から手を差し出すと、暫くして小さな黒い塊が飛んできた。


烏にしては小柄で、それが一瞬なにか分からなかったが、手のりサイズで羽を休めている姿に、千秋は二三歩後ずさる。


「こ、コウモリ!?」


「そうだ」



「……まさか、これが頼もしい助っ人なんて言うつもり?」



「そうだ」


レオの悪びれない様子に千秋の微笑みに影が射す。
指をならしながら、もう一発目の前の役立たず悪魔にお見舞いしようとしたが、それを察したのか僅かに上擦った声で弁解してきた。


「ま、待て!こいつは俺の使い魔だが、それなりに有能な奴なんだぞ!」


「コウモリに口説かせてってサーカスでもやらないわよ。コントでも笑えない」



「コントだなんて失礼な御仁ですね!これでもフェミニストでちょい悪なコウモリとして女性に人気があるのですから」




「いや、コウモリの時点でフェミニストとか意味分かんないから」


千秋の呆れたような口ぶりに、衝撃を受けて早くも消沈している様だった。
こんな事で本当に大丈夫なのだろうか?
見た目ではないとは言うが、見たところでどう見繕っても有能の部類に入るとは思えない。


「仕方ありません。それでは、旦那の主様には特別に見せてあげますよ!」


コウモリはレオの手元から飛び立つと部屋の中で円を描きながら飛び回り、やがてその体を光らせていく。
アニメなどで見たことある美少女戦隊が変身する様にみるみるその体は大きくなり、褐色肌の青年へと姿を変えていく。
銀色の髪に褐色肌、まるで漫画か乙女ゲーム的な場所から飛び出してきたキャラクターである。
確かにイケメンではあるが……。


「あのさ、もっと無難な男前になれないわけ?国籍が違いすぎて近寄りがたい雰囲気でしょうが!」


「ええ!?フェミニストでちょい悪なんて、大体こんな感じでしょう!?」


……。このコウモリのフェミニストとちょい悪なイメージは、どこまでぶっ飛んでいるのだろうか。
もうツッコミを入れるのも面倒になった千秋はただただ深い溜め息を溢す。


その空気を読んでいない美しい青年もとい、使い間コウモリは胸を張っていた。

「任せて下さい!旦那と主様の期待に応えられるよう、その主様のご友人を必ずやモノにしてみせますよ!」
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