社長は今日も私にだけ意地悪。
その笑いは木崎さん達にもしっかりと聞こえていたようで、「何笑ってんだよ」と睨まれてしまう。


「す、すみません。
でも、二曲目でお客さんは特別減ってはいませんよ。確かに帰ってしまった人もいましたが、お客さんにも時間の都合はあったはずですから。その証拠に、とても名残惜しそうに去っていく人もいました。
だから私は、今日のライブは大成功に終わったと思います!
さっきも、ここへ来る途中で女性の二人組が皆さんのことをカッコ良かったねって話題にしているのが聞こえました!」

本当にお疲れ様でした! と頭を下げると、四人も声を合わせて「お疲れ様でした」と言ってくれた。それが少し意外だったけれど、凄く嬉しくもあった。私が思っているよりずっと、彼等は真面目で律儀なのだろう。



市役所を出ると、出入り口の付近に五歳くらいの女の子が立っていた。お母さんと思われる女性と一緒だ。

女の子は、何か言いた気にソワソワしながらこちらを見ているので「どうかしたかな?」と聞いてみると。


「あのね、お兄ちゃんにこれあげるっ」


そう言いながら、女の子は木崎さんの正面に立ち、彼に右手を差し出した。

女の子の小さな手のひらには、ピンク色の包み紙の飴玉がちょこんと乗っている。


「お歌、凄くカッコ良かったから」

恥ずかしそうに、でもハッキリと自分の気持ちを伝えてくれる女の子と目線を合わせるように木崎さんはその場にしゃがみ込んだ。

そして、満面の笑みを浮かべながら。


「ありがとうな!」


そう言って、女の子から飴を受け取る。


女の子は木崎さんと握手をした後、とても嬉しそうにしながらお母さんと帰っていった。
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