社長は今日も私にだけ意地悪。
だけど、彼女が編集しているという雑誌『point』は、有名タレントを何人も専属モデルとして契約していて、毎月発行されている女性雑誌部門の中でも上位の売り上げを誇っている。

雑誌の主な購入層は、二十代から三十代のOL。年齢層的にも木崎さんの起用は合っていると思われる。


決して悪い話ではない。それどころか、駆け出しの彼等の知名度を広げる為の良い話でしかないだろう。



だけど……。


「分かりました。本人に確認を取った後に、また連絡させていただきます」


そう答え、私は一旦電話を切った。


起用はもちろん凄く嬉しい。
だけど〝歌〟とは何の関係もない起用理由で、木崎さんは本当に引き受けてくれるのかな?
そもそもこの仕事の話は、RED search全員にするべきだろうか? 選ばれたのが木崎さんだけというのは、他の三人からしたら良い気分はしないのでは?

万が一、これが原因で仲違いを始めてしまったら……。

考えたらゾッとしてしまう。
いやいや、仲違いだなんてそんなことあるものか。彼等は私と知り合うずっと前から何年も一緒にバンド活動してきた仲なんだから。

……でも木崎さんと白石さん、この間激しく言い争いしていたしなあ……。


佐藤さんに相談してみようかと思ったけれど、担当する歌手の売り出しでかなり忙しそうだし、話しづらいな……。



すると、デスクの上に置いておいた携帯がピコンと音を鳴らす。メッセージアプリの新着メッセージを知らせる音だった。


携帯を見ると……送り主はまさかの社長だった。
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