ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間

ハチ




どう対処するのか準備もできてないのにと焦っていると、リビングのドアをハチが開けた。  


「ただいま」  

「おかえり」  


笑顔で声をかけるハチに、素知らぬフリで沙希も答える。  

「ゴメンな。
今日こそ早く帰れるはずだったのに
結局、遅くなっちゃってさ。
ほんと、ゴメン」  


普段と変わらず、笑顔で話しかけるハチ。
いつもなら、問題なく聞き流せることだった。

が、今日は違う。
ハチに自覚はないだろうが、今ここにいるのは捜査官と容疑者だ。  


「仕事、大変なんだね。
外回りってよくあるの?」  


「や、たまたまだよ。
今日は建設予定のビルの打ち合わせでさ。
急に来いっていうから困ったけど
断るに断れなくてね。 参ったよ」  


「一人で打ち合わせに行ったの?」  


「いや、関口さんと二人だよ。
彼女が担当補佐だからね」  


沙希は意外にも簡単に口を割ったハチに拍子抜けしながらも、尋問を続ける。  


「彼女と二人きりってこと よくあるの?」  


「そりゃ、物件によってはな。
二人で動くこともたまにあるよ」  


面倒くさいと言わんばかりに、ハチの口調が変わった。
が、沙希はかまわず尋問を続ける。  


「今日は直帰?」  


「いや、一旦会社に戻った。
なんだ、何かあったのか?」  


的を得ない執拗な尋問にさすがのハチも違和感を感じたらしい。
業を煮やしたハチが沙希に食ってかかった。  


「や、別に何もないよ。
ただ聞きたかっただけ」  


「聞きたかっただけ…って
明らかにおかしいじゃないか。
なんだよ、急に」  


「おかしくなんかないよ。
私は訊きたいことを訊いただけ。」  


「だから、それがおかしいって
言ってんだよ」


 
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