ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間

シェパード




最初に声を掛けてきたのはコリーだった。  


「村上さん、
総務の呼び出しって
何かあったんですか?」  


――あなたはいつも元気一杯ね


心の中で呟きながら、微かに笑顔を作る。  


「ああ、それは問題ないよ。
業務のことで引き継ぎでね。
でも、頭痛い。
ちょっと疲れてるのかな?」  


「まぁ、転部してきて早々接待ですからね。
しかも、鷲尾会長の。
そりゃ、疲れて当然ですよ。
あんまり無理しないでくださいね。
僕にできることあれば何でも言って下さい」  


「ありがと。
辛くなったら、甘えちゃうかも…」  


「ほんと気兼ねなく言ってくださいね。
こう見えて結構頼りになりますから。」  


そう気張りながら、白い歯が光った。
コリーが精一杯背伸びして見せる優しさが心に沁みる。
場が場なら、ギュッと抱きしめたいくらいだ。


そんな衝動を抑えながら、目を移すとシェパードと目が合った。
シェパードの手がミーティングルームを指している。
内々の話があるってことだろうと、やっと戻れた席をまた後にした。  


「大丈夫か?」  


「はい。
逆に部長に気を遣わせてしまって
昨日は本当にすみませんでした」  


「そんなこと気にしなくていいんだ。
大丈夫なら、それでいい」  

失態を責めるのではなく、本心から気を遣ってくれているシェパード。
心配してくれているシェパードに対し、片やそのシェパードを罠にはめようと考えていることが沙希の心に暗い影を落とす。

が、やるしかないのだ。
とりあえず、誘うなら二人きりの今がチャンスだ。
シェパードにそれとなく相談があるフリをして、誘ってみることにした。  


「部長、今夜は予定ありますか?
もし、よかったらですけど
ちょっと時間貰えないですか?」  


沙希の申し出が意外だったのか、仕事の悩みと勘繰ったのか、シェパードは一瞬間を置いて返事をした。


「俺なら、大丈夫だけど… 鷲尾の件…か?」  


「それもありますし…
や、それだけではないですけど」  


「そうか。
でも、仕事の相談なら
遠慮なくしてくれよ。
ところで、場所は決まってるか?」  


危うく「部長の自宅で」と口から出そうになるが、寸でのところで飲み込んだ。
部下からの相談で自宅を指定されたら、シェパードでなくても訝るはずだ。  


「特には決まってない…ですが」  


「じゃ、8時に BACKSTAGEでいいか?
俺は外に出るから、店で待ってるよ」  


そう言って微笑むと、私の肩をポンと叩いてシェパードは部屋を出て行った。  


――はぁ…   気が重い。


でも、とりあえずはやるしかない。
心を鬼にして、割り切るしかないのだ。


そう胸に秘めて、沙希もデスクへと戻った。


 
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