ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間
「何で、黙っていたんだ?
もっと早くにわかっていれば…」
「2年前、あのことがあってから
すぐにお前は部長になった。
脅されていたんだろうな。
逃げ帰れば、お前の将来はない、と」
「誰に?
鮫島…か?」
シェパードの目が敵意を剥き出しにする。
「や、あいつにそんな力はない。
単なる駒使いにすぎん。
今回のことも、な。
裏で…糸を引いてる人間がいる」
土佐犬はその悲しそうな目で伝えているようだった。
あいつを恨むな、俺を恨め、と。
「まさか…」
シェパードも答えを導き出したようだ。
「何でそんなことを…」
「だから、あいつを悪く思うな。
すべてはわしの責任だ」
土佐犬は名前を出さずに、自責を訴えた。
実の娘だ。
名前を出したくなかったんだろう。
「でも、由紀恵にそんなことが
できるわけがない」
「あいつはな、武士
お前が思ってるほど子供じゃない」
事実を受け止めろと言わんばかりに、土佐犬はシェパードを見つめる。
その視線に感化されたのか、シェパードが今までの誤解を吐き出す。
「俺はてっきり
すべてが親父の仕業だと思ってた。
恵美を奪ったのも、
菊水の女将にしたのも
俺を陥れるためにってな。
どれだけ親父を恨んだか…
でも、それが違っていた…なんて…」
「すまなかった。
が、一つだけ違うことがある。
菊水の女将にしたのは、わしだ」
「どうして?」
「見てしまったんだよ。
お前の写真を抱きしめて
咽び泣く恵美さんを。
それで、気づいた。
お前のことを想って耐えていることを。
だから、女将にして
お前の気持ちを試した。
邪魔が入らん程度にして、な」
「じゃ、恵美は… 本当にまだ俺のことを?」
土佐犬が黙って頷く。
シェパードの眼に涙が滲んでいる。
これ以上、私がここにいるべきではないと沙希は部屋を出ようと立ち上がった。
襖に手をかけ、開けようとした時だった。
襖の向こうから、嗚咽に近い泣き声が聞こえる。
新川恵美だろうその声は、沙希が襖を開けた瞬間、踵を返し慌てて立ち去っていく。
「待って、恵美さん」
沙希の叫び声に反応して、シェパードが部屋から飛び出し、彼女を追いかける。
その目には彼女しか映っていないようだ。
もう、簡単に諦めた2年前の彼ではない。
辛い日々を送った分だけ、強く抱きしめることだろう。
――今度はちゃんと逮捕するように
と警察犬にエールを送った。